​作品紹介

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​act.17

−プロローグ−
 今年もやってきた祭りの季節。日は落ちかけ、オレンジと薄紫が混じり合う空。蝉はまだ鳴いている。祭りの時間が近づくにつれて落ち着かない仲間たちの空気。一年待ちわびていたこの祭り。練習の汗と涙が染み込み、誇りに満ちた法被に袖を通す。そして目を閉じ、心を一つにする。今宵、あの最高の舞台からしか見えない、絶景を見に行くために。

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−口上−


 薄紫色をした夏特有の空。傾く夕日に、名古屋城の城壁の外まで太鼓の音が聞こえてくる。行き交う人々も急ぎ足で祭りへ向かう。だんだんと近づき、胸の鼓動かのように高まる音。いよいよ城門をくぐる時。飾られた宵祭り提灯に、いよいよ祭りを実感する。呼吸が浅くなる。心が震える。これぞ祭りだ。息を呑む

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−憧れ−


「熱き夏祭りを象徴するは我らが男!盛り上げるのは夜宵の男よ!自分達にしかできない祭りの粋があるだろう!自分に酔いしれ背中で語れ!誰もが憧れるかっこよさを見せつけてやれ!!」
 急に起こった祭りの渦に人々は集まり、いきなりピークかのような盛り上がりに人々は圧倒される。屋台の人も手を止め目線を集める。人々の興味はいつしか憧れに変わっていた。

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–魅了−
 

男のそのかっこよさを惹きつけられた人々が、ざわめき、振り向き始める。そこに現れたのは女達。美しくもかっこよく、触れたら切れてしまいそうな儚くも鋭い踊り。一目見ようと集まる人々も、自然に道を開けてしまう。目を離すことができない雰囲気で人々を魅了していく。言葉も出さず、男達の客を奪っていく。その姿は、まさに祭りの華。

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−骨頂–
 

客を取られた男達も、負けていられぬと身を滾らせる。屋台の並ぶ大通りを闊歩し、道を紺に染め上げる。その高ぶりに踊りのキレが増す。男と女の魅力が掛け合い、その舞姿に磨きがかかる。「これが夜宵の祭か!」人々は身を乗り出して、夜宵の虜になっていく。

−盆踊り−
 祭りに夢中になっていると、もうすでに日は城に隠れ、空は赤紫色になっていた。祭りが始まって、まだほんの数分しか経っていないように感じていた。毎年のごとく、祭りは一瞬で終わっていく。
「祭りが終われば今年の夏も終わりか…」
そんな思いが一瞬頭をよぎる。騒がしい祭りのどこからか名古屋ばやしが聞こえてくる。
 名古屋城宵祭りの名物、大盆踊り。小さな円から始まり、その音につられて人々は集まる。
人々が櫓の上の浴衣の踊り子に目を向け、見よう見真似でひっそりと踊る。笛の音色に耳を傾けると、どこか懐かしい。小さい頃に祖母の手を取り踊った盆踊りを思いだす。この懐かしさは、日本の夏祭りだけしか味わえないのだろう。

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−賑わい−
 

最近の盆踊りは民謡だけではない。ノリのいい曲や、誰もが聴いたことのある曲まで。その簡単な踊りに心起きなく踊る。隣の人と目を合わせると、楽しそうな笑顔が溢れている。人の声に誘われ、お酒を飲んでいた人たちまで立ち上がり、集まり始める。賑わいと共に、人が人を呼び、そして人が集まればさらに賑わう!

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太鼓 みかさんママ.jpg

−太鼓–
 

「祭りの賑わいはこれじゃ足りねぇ。これが本当の宵祭りよ!」広場に現れたのは、太鼓を持った威勢のいい男たちと、笛を持ち、視線鋭い法被隊。スピード感のある踊りと音色で場を盛り上げる。目ている人々の鼓動も早くなっていく

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–滾り–
 

鳴り止まぬ太鼓に、賑やかな人々の声。皆が名古屋城の元、櫓の元に集まり、祭りを楽しむ。いつしか月が昇っていた。
 大太鼓が打ち鳴らされ、場が静まる。いよいよ祭りが佳境を迎えるようだ。太鼓の音を合図に名古屋城が光り輝く。紅白の祭提灯の灯りに照らされて、人々が朱く染まりゆく。

 一色に染まる会場に、踊り子の心が震える。夏を賭けた思いを胸に、
「これで最後だ。さぁ、絶景を見に行こう!」

今宵、一夏を賭けた夢踊り
今こそ、その胸の中で高ぶり、滾る心を放て
櫓の元に集い、燃ゆる生命よ
身も心も空気も染め上がれ、祭色

–真骨頂–
 

一糸乱れぬ踊りに、息さえも一つになっていく夜宵。そして会場を巻き込んだ盛り上がりは留まるところを知らない。
 夏をかけて夢見たこの場所。それほど価値のある場所。二度と今いるこの仲間たちとは立つことができない場所。

「この刹那ー紲夏ーに、魂響かせ」

朱く染まった会場に、光り輝く名古屋城。そして祭色に染まる人々。
まさに絶景。


きっと明日には今隣にいる人はいない。一年に一度、偶然に足を運び、偶然に出会った。来年同じ祭りでも、同じ櫓の元でも出会うことはないのだろう。しかし、この刹那に観た景色は忘れない。刹那は刹那でも、この刹那には一夏の想いがこもっているから。

ほんの一瞬に、全ての仲間と、全ての想いに心を馳せ、絶景を見て一呼吸。
それが、絶景に酔う。

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​歌詞

名古屋ばやしでよっさよさ
踊れや踊れ

灯火揺らぎ 宵の闇を彩る
暁に背を向け 行かん花道

今宵夢躍り 滾(たぎ)る心を放て
つどい燃ゆる生命(いのち)よ
染め上がれ祭色
この紲夏(せつな)に魂響かせ

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